人生はお試しの繰り返し

果てしない此の世に宙ぶらりん

すべての四月のために 感想殴り書き

  初めての剛くん舞台。本当に楽しかったし生きることの難しさとだからこその素晴らしさを考えさせてもらえるような舞台でした。全体のノリとしては吉本新喜劇に通ずる物があって、特に私は小さい時から毎週土曜日の12時からはテレビの前に張り付いて見ている人間なので、声を出してゲラゲラ笑ってしまう所もありました。愛知って大阪の番組結構流れるので新喜劇はずっと放送してるんです、不思議と。

 

  冒頭からリュックからペットボトルを取り出して水を飲み干す剛くん。「トイレ大丈夫?」って勝手に心配になりました。(保護者か)

 

  剛くんは主演としてこの舞台に挑んだ訳だけど、ストーリーテラーに近くて、安田家の面々を一歩引いた立場で見つめながら優しく見守っているような役。30代後半になって舞台役者としてのある程度の地位を築き上げた今だからこそ出来る優しいさを感じました。それと同時にこの舞台は俳優さんそれぞれが演技を楽しみ、全ての役に愛情を持っているからこその笑顔に溢れているのだと思いました。またストーリーのシンプルさ故に役者さんの表情、声、動作一つ一つが活きる演出と脚本だったように思います。

 

  夏子の人生はやりたい事をしたいように続けて、支えてくれる春根さんがいて、気は強くて明るく生きているからきっと悲しみなんて感じないんだろうと思われるけど、実は色んな気持ちの裏返しで、だからこそ色んな気持ちを何も言わずに受け止めてくれた春根さんが大好きで、結局は彼が永遠に帰ってこないってことを忘れるために毎日お祭り騒ぎしてる、一番悲しい人生に囚われた人なんじゃないかと思います。でも一人の人を愛し続けることってとても素晴らしいことで、その真っ直ぐさと力強さに雲一つない青空から注ぐ夏の日差しを思い出しました。

 

  秋子は萬足に愛されていない訳じゃないけど、気持ちは冬子さんにあることが分かってて結婚して、でも職業も自立しているし、自分のふとした不満はきちんとその場で解消できていて、なんとなくOLみたいだなあと思いました(笑)色んなネガティブな気持ちは抱えながらもちゃんと幸せになれていて、ある意味したたかではありますが自分の気持ちに素直で、それでいて不器用な生き方しか出来ないところが愛おしく感じました。したたかで安定を求める所が秋っぽさな気がします(笑)

 

  冬子さんには結構自分を重ねてしまって勝手に沢山のことを想像してしまいました。実を言うと私も片足を上手く動かせず引きずる歩き方をしているし、というかそもそも見た目では分からないんですけど障害者で。多分桜の木の上から落ちて足が元に戻らなくなった時に冬子さんは「もう自分は普通ではない」と諦めた気持ちがあったはずで、だから萬足に「自分の人生に花が咲かなくても実がならなくても、私は幸せ」と言い切ってしまうんだろうなって思うんです。「足りない自分は誰かに愛される価値もない、だったら他の人の幸せのために生きていくことが最良だ」って思い込んでいるから、あの理髪店で痛む足を引きずりながら働く。私も看護師やってるのはそんな気持ちがあるからで、多分ずっと1人で生きていくのかなあなんて24歳にして思い込んでいるんですけど(笑)ただ、冬子さんは篠田さんと出会えて本当に良かった。片足の不自由さ、そこから生まれる生き辛さは家族やどんなに親しい友人にも分かってもらえない、分かろうとしてくれても「結局苦しいのは自分だけ」とふさぎ込んでしまうところをあの二人は分け合うことが出来る。きっと冬子さんにとっても篠田さんにとっても永遠にお互いが無二の理解者として生きていくのだなあと思います。閉ざされた部分のあるところが冬らしいところな気がします。

 

  春子は唯一、死に方を考えさせられる役どころでした。予期せぬ死であったものの、きっと春子は工作行為に関わった時点で明るみになれば自分がどうなるかは分かっていたのだと思います。だからこそのあの潔さ。「明日にはきっといいことがある」と希望をひたすら繰り返しても変わらぬ日常、終わらない戦争にどことなく疲れていたのかもしれない。工作行為に加担したことは若さゆえの無鉄砲さであり、彼女の死は「散っていった」という表現が似合う。春の麗らかさを思わせる天真爛漫さと自由なところが、春を思わせる役でした。

 

  大雲さんは親日派と罵られても島に残ることを決め一緒に笑ってくれた春子の亡骸の側で亡くなる。生き方を選ぶことは死に方を選ぶことに通ずるのだと再認識しました。

 

  萬足の日記に最後に書かれた「幸福だった」という言葉は、生きる上で生まれる葛藤も苦しみも辛さも不安も悲しみもその瞬間だけの感情で、結局はあの島の理髪店で起きた全てを、あの島で出会ったすべての人を思い出せば愛おしさしか残らないと思えたからこその言葉だったように思います。

 

  看護師として、手術を終えて晴々と退院する顔、色んな最期の形を見送って、生きることと死ぬことの意味がよく分からなくってきた自分にとってすごく考えさせられる舞台でした。生きる上で起こる色んなこと、全てがいい事ではないけど、いつか私が全部を終えた時にはきっと愛おしい思い出になるのだから、だったら毎日を一所懸命に生きてみようと思います。

 

  この舞台の感想なんで面白いこと一つくらい言おうと思うんですけど、Get Nakedしてる森田剛いませんでした???????